非居住者が日本国内の不動産を売却した場合の税務手続き

不動産を売却した年の翌年3月15日までに確定申告が必要

 非居住者が日本国内の不動産を売却した場合、その売却した年の翌年3月15日までに確定申告が必要です(所得税法第164条第1項第一号ロ、第二号)。つまり、不動産の売却代金を受領した際の10.21%の源泉徴収だけでは課税は完結せず、確定申告をすることにより確定納税額との差額が精算されることになります。

 なお、土地・建物等の譲渡所得については、定率の税率による分離課税(他の所得と分けて課税)がされます
 税率については、その譲渡が短期譲渡に該当するか長期譲渡に該当するかにより以下のように変わります(一定の場合に税率の特例あり)。
 ・短期譲渡所得(譲渡した年の1月1日時点においける所有期間が5年以下の場合):税率30.63%
 ・長期譲渡所得(譲渡した年の1月1日時点においける所有期間が5年超の場合):税率15.315%


<計算例1:譲渡対価1億5千万円 譲渡原価1億4千万円 短期譲渡の場合>
・源泉徴収税額:1億5千万円x10.21%=15,315,000円
・確定納税額:(1億5千万円-1億4千万円)x30.63%=3,063,000円
・還付税額:3,063,000円-15,315,000円=△12,252,000円

<計算例2:譲渡対価1億5千万円 譲渡原価1千万円 長期譲渡の場合>
・源泉徴収税額:1億5千万円x10.21%=15,315,000円
・確定納税額:(1億5千万円-1千万円)x15.315%=21,441,000円
・追加納税額:21,441,000円-15,315,000円=6,126,000円

住民税は原則として非課税

 土地・建物等の譲渡所得については、譲渡の年の翌年1月1日時点の住所地の地方公共団体において、定率の税率による分離課税により住民税が課税されます
 税率については、その譲渡が短期譲渡に該当するか長期譲渡に該当するかにより以下のように変わります(一定の場合に税率の特例あり)。
 ・短期譲渡所得(譲渡した年の1月1日時点においける所有期間が5年以下の場合):税率9%
 ・長期譲渡所得(譲渡した年の1月1日時点においける所有期間が5年超の場合):税率5%


 非居住者については、譲渡の年の翌年1月1日時点においても帰国せず、日本国内に住所を有しないのであれば、住民税は課税されません

非居住者の申告・納税事務は納税管理人が行う

 個人である納税者が日本国内に住所及び居所を有しない場合には、納税管理人を定めなければならないこととされています(国税通則法第117条第1項)。
 そして、実際の申告・納税事務の処理にあたっては、納税管理人を介して行うこととなります。

 納税管理人は、日本国内に住所又は居所を有する者であれば、個人・法人問わず誰でもなることができます。一般的には、国内に住む親族や、税務代理を行う税理士が受任することが多いと思われます。

まとめ

 ここまで、非居住者が日本国内の不動産を売却した場合に必要となる税務手続きについて解説してきました。

 要点をまとめると、
 ・不動産の売却代金は、原則として10.21%で源泉徴収される
 ・不動産を売却した年の翌年3月15日までに確定申告が必要。土地・建物等の譲渡所得金額に対し30.63%(短期譲渡の場合)または15.315%(長期譲渡の場合)で課税され、源泉徴収税額との差額が精算される。
 ・住民税は翌年1月1日時点で帰国していない限り、非課税。
 ・申告・納税手続きは、納税管理人を介して行う。


 なお、上記の取扱いは、全て国内税法(国税通則法、所得税法、租税特別措置法)の規定に則って解説しておりますが、本来は租税条約*上の取扱いについても検討が必要です。もっとも、不動産の譲渡収益については、租税条約上も通常は不動産の所在地国における課税権を認めていますので、結果として国内税法の取扱いと同様の取扱いとなります。

 * 租税条約の正式名称は、通常、「所得(及び譲渡収益)に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国(政府)と○○○(国名又は政府)との間の条約(または協定)」といいます。その名の通り、主として国際間の二重課税の排除を目的として二国間において定める租税に関する課税ルールのことで、租税条約は国内税法に対して優先適用されます。

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