非居住者が日本国内の不動産を賃貸した場合の税務手続き

毎年確定申告が必要

 非居住者が日本国内の不動産を賃貸した場合、その賃貸料等を受領した年の翌年3月15日までに確定申告が必要です(所得税法第164条第1項第一号ロ、第二号)。つまり、不動産の賃貸料等を受領した際の20.42%の源泉徴収だけでは課税は完結せず、確定申告をすることにより確定納税額との差額が精算されることになります。

 不動産の賃貸料等は他の所得と合算され、5.105%~45.945%の超過累進税率*により課税(総合課税)されます。
 * 所得が小さい部分には低い税率が、大きい部分には高い税率が適用される制度。

<出国年分の確定申告について>
 年の中途で海外赴任等により出国した場合、1年の中に居住者期間と非居住者期間の両方が存在することになります。この場合、居住者期間中に得た給与所得等を合算して確定申告をすることになります(所得税法基本通達165-1)。

所得控除は一部しか適用できない

 非居住者の所得控除については、基礎控除、雑損控除、寄附金控除しか適用できません(所得税法第165条第1項)。日本にいた時のように、医療費控除や生命保険料控除等は使えませんので、注意が必要です。
 
 なお、出国年分については、1年の中に居住者期間と非居住者期間の両方が存在することになりますので、各種所得控除が使えます。ただし、医療費控除や各種保険料控除は、居住者期間中に実際に支払ったものに限り適用できますので注意が必要です(非居住者期間中に支払ったものは控除対象外)(所得税法施行令第258条第3項第二~四号)。

青色申告承認申請書の提出を忘れずに

 青色申告特別控除等の青色申告の特典を受けたい場合には、青色申告承認申請書を所轄税務署に提出する必要があります。
 賃貸を始めた年から青色申告をするためには、賃貸開始の日から2ヶ月以内に申請書を提出する必要がありますので、忘れないようにしましょう。

住民税は原則として非課税

 住民税は、翌年1月1日時点の住所地の地方公共団体において課税されます。
 従って、非居住者については、翌年1月1日時点においても帰国せず、日本国内に住所を有しないのであれば、住民税は課税されません

事業用賃貸物件はインボイス制度に注意

 2023年10月1日から開始される消費税のインボイス制度は、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)から交付を受けた適格請求書(インボイス)の保存がなければ、原則として仕入税額控除が認められない制度です(6年間に渡って50%~80%を控除できる経過措置あり)。
 インボイス発行事業者になるか否かは任意ですが、インボイスを発行できるのは課税事業者として登録されたインボイス発行事業者だけです。制度の開始日である2023年10月1日からインボイス発行事業者としてインボイスを発行するには、原則として2023年3月31日までに登録申請が必要となりますので、注意が必要です。

 非居住者が貸し付けた物件が居住用の場合には、その賃貸料収入の消費税は非課税となりますのでインボイス制度は関係してきませんが、賃貸物件が事業用の場合には消費税の課税取引とされますので、インボイス制度が関係してきます。借主からインボイスの発行を求められることが予想されますので、インボイス発行事業者となるかどうかも含めて、対応を検討する必要があります

非居住者の申告・納税事務は納税管理人が行う

 個人である納税者が日本国内に住所及び居所を有しない場合には、納税管理人を定めなければならないこととされています(国税通則法第117条第1項)。
 そして、実際の申告・納税事務の処理にあたっては、納税管理人を介して行うこととなります。

 納税管理人は、日本国内に住所又は居所を有する者であれば、個人・法人問わず誰でもなることができます。一般的には、国内に住む親族や、税務代理を行う税理士が受任することが多いと思われます。

(次ページはまとめページです)