非居住者が日本国内の不動産を売却した場合の税務手続き

 経済のグローバル化が進む昨今、企業にお勤めの方が海外へ転勤することや、いわゆる富裕層の方が海外移住をすることも珍しいことではなくなってきました。また、外国人の投資家が日本国内の不動産等に対する投資を行う、いわゆるインバウンド投資についても、盛んにニュース報道等で目にする機会も多いと思います。

 このように海外に住む非居住者の方が、日本国内の不動産を売った場合、どのような課税が起きるのでしょうか。
 本記事では、非居住者が日本国内の不動産を売却した場合に必要となる税務手続き等について解説します。

非居住者とは

 具体的な課税関係の説明に入る前に、非居住者の定義について説明しておきます。
 「非居住者」とは、ざっくり言うと「海外に住んでいる人」のことを言います。
 当たり前じゃないか、と思われるかもしれませんが、実は税務上は結構問題になります。なぜなら、例えば海外と国内を頻繁に行き来している人で、それぞれの国に居宅を持っている場合、どこの国の居住者かという判断が非常にあいまいで線引きをするのが難しいためです。この辺りの話しをすると非常に複雑かつ長くなるので、「非居住者」についての解説は、また別の機会したいと思います。

非居住者の課税所得の範囲

 非居住者が課税される所得の範囲は、「国内源泉所得」に限定されています(所得税法第7条第1項第三号)。「国内源泉所得」とは、所得税法161条に規定されており、端的に言えば日本国内で発生した所得のことを言います。居住者が原則として国外源泉所得も含めた全ての所得(全世界所得)に対して課税されるのとは対照的といえるでしょう。
 
 非居住者が国内の不動産を売却した場合、その不動産売却により生じた所得は国内源泉所得に該当します(所得税法第161条第1項第三号、所得税法施行令第281条第1項第一号)。その結果、日本において課税がされることとなるため申告納税が必要となります。

<非居住者が国の不動産を売却した場合には>
 非居住者が日本国の不動産を売却した場合には、その売却にかかる所得は国内源泉所得に該当しないため、日本に課税権はありません。従って、日本においては非課税となるため、申告納税は不要です。
 通常はその不動産の所在地国において課税がされることとなります。

不動産の売却代金は原則として源泉徴収される

 非居住者が日本国内の不動産を売却した際に受領する代金には、原則として源泉所得税が課税され、10.21%の税率で源泉徴収されます(所得税法第161条第1項第五号、同第212条第1項、同213条第1項第二号)。

 ただし、その不動産の譲渡対価の額が1億円以下で、かつその不動産を個人が自己又はその親族の居住用のために譲り受けたものである場合には、源泉徴収はされません(所得税法施行令第281条の3)。これは、居住用とするために比較的少額の不動産を取得した個人についてまで源泉徴収義務を課すことは適当でないと考慮されたためです。

 なお、源泉徴収税額の計算にあたっては、譲渡所得(=譲渡対価-譲渡原価)に対して税率をかけるのではなく、譲渡対価に対して税率を掛けますので、注意が必要です。
<例:譲渡対価1億5千万円 譲渡原価1億円の場合>
 × (1億5千万円-1億円)x10.21%=5,105,000円
 〇 1億5千万円x10.21%=15,315,000円

<源泉徴収義務者(買主側)の視点から>
 不動産の買主側の視点で考えると、売主が非居住者の場合には、源泉徴収漏れが無いよう注意が必要です。
 買主が法人であれば常に源泉徴収が必要となりますし、たとえ普段は源泉徴収義務がないサラリーマンなどの個人の方であっても、購入額が1億円を超えたり賃貸物件等を購入すれば源泉徴収義務が発生します。そして徴収漏れがあれば、普通にペナルティ(不納付加算税、延滞税)が課されます

(次ページは申告手続き等について解説しています。)