日経新聞記事『中小化で節税、「1億円」企業続々 低成長で窮余の減資』に思うこと

 先日の日経新聞で表題の記事が取り挙げられていた。この記事について思うことがあったので、書いてみようと思う。

◆日経新聞2022年9月4日記事

中小化で節税、「1億円」企業続々 低成長で窮余の減資

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA165HR0W2A810C2000000

 当記事によれば、資本金を1億円以下にする減資を行う企業が2022年だけで100社に迫っているということだ。
 資本金を1億円以下にした場合には、税制上様々な特典が受けられるが、特に赤字企業にとっては、赤字でも税金がかかる外形標準課税の対象外となるのが大きい。外形標準課税は利益を上げている企業に有利に出来ているが、赤字であればそもそも利益がないのでその恩恵を受けることができない。それどころか赤字であっても資本金等の額に応じた税金を必ず払わなければならない。一方、中小企業であれば所得だけに課税する仕組みであるので、赤字であれば税金を払わずに済む。であれば減資をして外形標準課税を外した方が税金コストが安くなる、というわけである。
 日経新聞の記事では、こうした日本企業の動きが増えていることをとらえて、日本の成長力の低迷を示しているとしている。

そもそも資本金の額だけで税制が変わるのがおかしい

 資本金の額によって税制が異なるのは、企業の規模は様々で、体力が異なる企業に同一の税制を適用するのは適当ではないという考え方があるからだ。つまり、資本金の額が企業規模を表わしているという前提に基づいている。

 確かに資本金の額は企業規模を表す指標の一つではあるが、資本金の額のみで適用される税制が変わるのは少なからず問題があると言わざるを得ない。なぜなら、資本金の額は株主から払い込まれた出資額を表す一つの計数に過ぎないからだ。具体例を挙げると、出資時に資本金の額に計上する必要があるのは払込金額の半額で、それ以上であれば自由に設定できる。また、その後に減資をして資本金の額を自由に減らすことも可能だ。極端な話、資本金の額を1円にだってできるのだ。

 資本金100億円であった企業が、減資をして資本金1億円+資本準備金99億円のようになった場合、この企業は果たして中小企業と言えるのだろうか。

各税法で一定の手当てはされているが・・・

  この点、地方税の均等割については、最低でも資本金と資本準備金の合計額が税額の基準となるため、単純に資本金から資本準備金に振り替える減資をしたとしても税額を減らすことはできない。

 法人税についても、発行済株式の50%以上を資本金1億円以上の大規模法人に支配されている場合や、2/3以上を複数の大規模法人に所有されている場合等には、中小特例の適用対象外となる。また、H22年度の税制改正により導入されたグループ法人税制によって、100%親会社が資本金5億円以上の大法人である場合には、中小特例は利用できないこととされた。近年では、H29年度の税制改正により、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人については、一部の中小特例が適用対象外となるなど、一定の手当てがなされている。

 外形標準課税の資本割の課税標準についても、原則として法人税法上の資本金等の額が課税標準となるため、単純に資本準備金に振り替えるような減資をしたとしても、税額は変わらない。しかし、外形標準課税が課税されるか否かの線引きはあくまで資本金の額で判定することとされており、いくら資本金と資本準備金の合計額が大きくても、資本金の額は1億円以下でありさえすれば、外形標準課税の対象外となる。
 
 その会社自身の資本金+資本準備金で適用可否を判定するような法律はまだないのだ。

問題はあるが節税手法の一つとして残すべき

 ここまで、資本金が1億円以下だからと言って必ずしも中小企業とは言えないのではないかということと、税制上の(十分とは言えない)手当てについて述べてきた。個人的な意見としては、ここまでの論調とは異なってしまうが、色々と問題はあるもののやはり減資による節税手法(特に外形標準課税の免除)は残すべきだと思う。

 既に述べた通り、外形標準課税は赤字の企業にも課税がされる仕組みになっている。ベンチャー企業などは、特に創業期において開発投資等で赤字先行となることが多く、また、多くの投資家から出資を募る分、資本金+資本準備金の額が大きくなってしまうのが常だ。創業期でキャッシュが必要な時に課税され、必要な投資に十分な資金を回すことが出来ないのは避けたい。ベンチャー企業が成長を果たす前につぶれてしまっては社会にとっても不利益であると思う。企業が成長し、十分な果実が得られるようになってから税金を徴収する形でも問題ないのではないか。

さりとて上場企業は例外とすべきではないか

 しかしながら、上場企業は例外だと思う。一般論ではあるが、上場企業は世間に大企業として認知されている。その上場企業が資本金を1億円以下にしたからといって、中小企業の特例を利用できるのは問題があるのではないか。
 特に外形標準課税については、事業税や住民税が応益負担の税金(行政サービスの享受に対する税金)と考えられているが、赤字法人はその利益を享受しているにも関わらず、その行政サービスの経費の負担をしていないことに対応するために導入された税金である。こうした課税の趣旨から言っても、一種の上場コストとして負担すべきではないだろうか。上場企業は利益を出すことが宿命づけられており、利益を出せば有利に働く外形標準課税は本来上場企業にとって優しい制度となるはずである。

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